地味とセクシーさが同居するマセラティ クワトロポルテに魅せられたファッショニスタ
2023/04/20

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
王道よりハズシに惹かれる
少年時代から「大のファッション好き」であると同時に「大の車好き(乗り物好き)」でもあった。
高校生の頃はイタリアのスクーター、ベスパでモッズ風にキメよう……と思ったが、ベスパは高校生にとってはあまりにも高価だった。しかし、だからといって当時の高校生がよく乗っていたヤマハ JOGなどのありがちなスクーターに乗ることは、ファッショニスタとしてのプライドが許さなかった。
「それでどうしたかといえば、銀行員をやっている友人のお父さんからヤマハのメイトというスーパーカブみたいな原付バイクを安~く譲ってもらい、それをモッズ風というかレトロ調にカスタマイズして乗ってました(笑)」

大学生になると、多くの学友たちは当時流行っていたトヨタ カローラレビンやスプリンタートレノなどに熱を上げたが、アンディさんはアウトビアンキ A112というイタリアンコンパクトをボーイズレーサー風に仕上げて楽しんだ。
そして社会人になっても、当時一世を風靡したホットハッチ、プジョー 205GTIではなく、あえてそのノッチバック版であるプジョー 309GTIを選んだ。
その後もアルファロメオ 145という“ハズし系”のイタリアンハッチバックに乗り、転勤のため4年間オランダに赴任。業務としてオランダ国内をシトロエン エグザンティアやフィアット スティーロ(※日本未導入)で走り回り、休日はフランスのパリまで遠征した。
そして帰国後、寝かせておいたアルファロメオ 145に再び乗ったのち、2008年から乗り始めたのが現在の愛車、2002年式マセラティ クアトロポルテ V8セリエスペチアーレだ。

「前から見ると『……昔の日産 ローレルか?』みたいに地味なビジュアルなんですけど(笑)、リアから見ると途方もなくセクシーなデザインである点とか、3.2L V8ターボエンジンの強烈なパワーと、それと対極にある『ホテルの一室にいるかのような気分になれるインテリア』も、とにかく気に入ってますよ。でもご想像のとおり、故障はけっこうしますけどね(笑)」
覚えている限りでこれまでに5回、レッカー車の世話になった。
「でも……だからといって『新しい世代の何かに買い替えたくなったか?』と問われれば、特にはならないですよ。まぁこれの他に、いちおう普通に動く(笑)ネットオークションで買ったプジョー 206CCも持ってるから、『止まると困る用事があるときはプジョーを使えばいい』というのは確かにあります。でももっと本質的な話として――」
アンディさんいわく「車としての“根本的な性能”は、今の車も古いマセラティもそんなには変わらないから」というのが、たまに止まることもあるマセラティに乗り続ける理由であるという。


同じ走って止まる車なら美しいものがいい
「例えば、最近の車とこのマセラティの性能が『新幹線と蒸気機関車ぐらい違う』ということであれば、そりゃ僕だってイマドキの車に買い替えますよ。でも『走って・曲がって・止まって・エアコンが利いて』という部分は、まぁだいたい同じじゃないですか? であるならば僕は、カタチもたたずまいも気に入ってるこれでいいし、むしろ『これがイイ!』という気持ちになっちゃうんですよね」
無人の広大な砂漠地帯を走るのであれば、乗っている車の故障は“死”にも直結する。だが現代のニッポンの都市部を走るのであれば、車が止まったところで死にはしない。基本的には。
その際に「でも自分はやっぱり止まらない車がいいよ」と考えるのも、もちろんご自由である。だがファッショニスタとしての覚悟をもって「たまに止まるかもしれない美しい車」を選ぶのも、同様に“自由”なのだ。


そして「止まる」といっても、毎回必ず止まってしまうわけではない。あくまで「ごくたまに」のことだ。
それゆえアンディさんは、決して「極端に勝率の低い賭け」に挑んでいるわけでもない。自分の美学を貫くうえでは、普通に許容できる程度のリスクであるといえるだろう。
もちろん「自分の美学を貫きたい」などと思ったことすらないのであれば、そういったリスクを追う必要はいっさいないのだが。

▼検索条件
マセラティ クワトロポルテ(初代) × 全国
アンディさんのマイカーレビュー
マセラティ クワトロポルテ
●年式/2002年
●年間走行距離/6000km
●マイカーの好きなところ/ガンディーニらしさの伝わるデザイン
●マイカーの愛すべきダメなところ/突然止まる
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/トラッドファッション、古着が好きな人

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。
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