“カーナビタイム「ARカーナビモード」” ▲スマートフォンで使うナビアプリのメリットは、縦置きにすることで横置きより“その先”の道路情報が把握しやすい点だ

激戦が続くカーナビアプリの世界

もはや「1人1台」ではなく「1人で複数台」の所有も不思議ではない現在のスマホ事情。AppleのiOS、GoogleのAndroidのようにOS別に所有する人、またスマホとタブレットを使い分ける人などそのパターンは様々だ。

そして、スマホをカーナビとして使う人も増えている。スマホにインストールするだけですぐに利用できる地図アプリは、種類を数えるのが苦痛(?)になってしまうほど世界中に溢れている。そして、一獲千金を夢見たベンチャー企業などが地図アプリビジネスに乗り出したのは良いが、すべてが成功しているわけでもないことから、浮き沈みの激しさは今も変わらない。

日本ではある時期、一気にカーナビアプリがリリースされた。その拡大を後押ししたのは「Google マップ」である。これをベースにオリジナルの機能を付加することで、個性を持たせたものが数多くリリースされている。
 

Googleマップ ▲ナビアプリとしても使え、検索能力に関してはさすがと思わせるほど優れているGoogle マップ。Androidだけでなく、iOSにも対応する

一方で、期待されながらもサービスを終了したアプリも少なくない。その代表格が「LINEカーナビ」だろう。2019年9月、現行型カローラ/カローラツーリングの発表と同時にリリース。当時の報道発表会にもLINEは参加しており、専用のコーナーでアプリの説明を行うほど力が入っていた。

アプリ自体もディスプレイオーディオとの親和性がまずまず担保されており、さらに、同社の持つ音声認識インターフェースである「Clova(クローバ)」を活用することで、相手先スマホのLINEアプリに音声のみで直接メッセージが送れるなど、LINEの普及度合いからもかなり将来性を含め期待されていたはずだ。

しかし、残念ながらこのアプリのサービスは2021年5月31日で終了してしまった。あれだけ期待されていたのにわずか1年半という短命だったことに関係者の中からも驚きの声は上がっていた。ビジネスである以上、採算が取れなければサービスの継続は難しい。LINEほどの大企業でもこれなのだから、ベンチャーで立ち上げた企業がそれ自体を維持することは極めて難しいと言えるだろう。
 

LINEカーナビ ▲CarPlay、Android Autoの他、スマートデバイスリンクという接続方法への対応。LINEメッセージの他、音楽再生も音声で行えるなどIT企業が作ったカーナビらしい仕上がりだった

メーカー系ナビアプリも転換を続ける

一方で、新しい時代を見込んで、既存のサービスを終了するケースもある。

有償からスタートし、2016年12月より無償提供していたトヨタの「TCスマホナビ」は2020年3月末で終了した。「Tプローブ交通情報」や大災害の経験を踏まえ「通れた道マップ」などを閲覧可能にするなどとても無償とは思えない充実した機能を有していた。

しかし、このアプリも終了。ただ救いがあったというか、引き継ぐような形で「moviLink」というアプリをリリースし現在に至っている。

この新アプリは非常にシンプルなユーザーインターフェイスを持ち、iOS、Android OSへの対応、オフラインでも使えるなど導入のハードルは低い。ただ、バランスは良いものの、以前のアプリと比べると積極的に使いたいという決め手に欠ける。
 

TCスマホナビ ▲独自のリアルタイム交通情報である「Tプローブ交通情報」を活用し、渋滞情報の表示や災害発生時に被災地域の交通情報がわかる「通れた道マップ」も搭載。アプリ利用料も無料だった
トヨタ MOVILINK ▲「TCスマホナビ」のサービス終了を受けて2021年3月29日より提供を開始した「moviLink」。スタート時は機能的にも物足りなかったが、日々アップデートを続け実用性を高めている

また、トヨタと並んでテレマティクスビジネスをけん引してきたホンダも、それまで行ってきた「インターナビプレミアムクラブ」向けの各種サービスを2022年2月末で終了している。

ちなみに、この中には会員向けのスマホアプリである「internavi LINC」なども含まれているが、原稿執筆現在、このサービスに連携するナビアプリ「internavi Pocket」は継続して使えている。ただし、目的地を予め登録しておける「Myスポット」などは「internavi LINC」側で管理していたので、変更も削除もできなくなっている。

テレマティクスサービスに関して、トヨタは「T-Connect」をさらに進化させた仕様を新型車に続々投入しているし、ホンダも前述した「インターナビ」から「ホンダコネクト」などへ移行の最中だ。

このことから、自動車メーカーのテレマティクスに依存するサービスの場合、大元であるメーカーのシステムが変更(終了)してしまうというと、サービス終了の憂き目を見ることになる。日々技術が進歩している中、従来型のシステムを維持・運用するには膨大なコストがかかる。愛用してきたユーザーにとっては残念ではあるが、ここは時代の趨勢(すうせい)と諦めるしかないのかもしれない。

この他にも、トヨタなどにカーナビを供給しているアイシン・エィ・ダブリュ(当時)の高性能カーナビアプリ「NAVIelite(ナビエリート)」、パイオニアがNTTドコモと協業して展開していた「ドコモドライブネット」もすでにサービスを終了している。
 

ナビクレードル横置き仕様 ▲オーソドックスとも言えるスマホの横置きによる利用例。このスタイルを実現するためのクレードル(台座)も数多く販売されている

カーナビアプリは2強の時代へ突入か

こうなると、今後のカーナビアプリの動向が気になるところだが、現状ではおおむね2強の争いになると見ている。まず無償で提供される「Yahoo!カーナビ」、そして有償の「カーナビタイム」である。

Yahoo!カーナビはその名のとおり、Yahoo!が提供するが、単純なカーナビアプリではなく、派生アプリとの連携も行える。

一方、カーナビタイムはこの領域におけるトップランナーでもある「ナビタイムジャパン」が提供。この会社の技術は携帯電話キャリアなどにも採用されている。

両社の共通点は、積極的な機能向上(アップデート)だろう。その内容は、アプリのバグ修正はもちろん、多くはより使いやすくするための機能の向上だ。さらに、ユーザーからの声(意見)を多く取り入れてながら改修している点も評価が高い理由だろう。

当然、有償であるカーナビタイムの方が機能は優れているが、Yahoo!カーナビは何よりも無償という点が圧倒的なアドバンテージを持つ。仕事にも車を使うような使用頻度の高い人にはカーナビタイムがオススメだし、週末ドライブ程度であればYahoo!カーナビでも十分のはずだ。
 

Yahoo!カーナビ ▲無料カーナビアプリのトップブランド「Yahoo!カーナビ」。地図更新、ナビ機能、渋滞情報の取得など専用機に迫る性能が高い評価を受けている
カーナビタイム ▲「カーナビタイム」は有償の分、機能的には優れている。地図更新の早さや渋滞回避能力の高さ、さらにドライブレコーダー機能まで搭載する、常に進化を続けるナビアプリである

鍵はディスプレイオーディオ

これらのアプリはスマホ本体をそのまま使用することを想定しているが、暑くなるこれからの季節は、設置するインパネ周辺などの車内温度上昇によるスマホ本体の故障などが懸念される。

そこで重要なのが「ディスプレイオーディオ」との連携だ。前述した2つのアプリはAppleのCarPlay、GoogleのAndroid Autoに対応しており、ケーブル、またはワイヤレス接続で車載器の画面上に地図だけではなく音楽や各種メッセージなどの機能を表示し活用できる。スマホ自体は直射日光などを避けた場所(鞄の中も含む)に置けるので、熱による故障のリスクは回避しやすい。

これらの車載器と連携し純正のようにテレマティクス環境を組み上げることができる点は、今後のユーザーニーズにおいてもメリットが多い。
 

カロッツェリアディスプレイオーディオ ▲スマホを直接接続することで大画面でナビアプリなどが活用できるのがディスプレイオーディオの最大の特徴。カロッツェリアの「DMH-SF700」は9型の高精細ディスプレイを採用する売れ筋モデルだ
最新トヨタ ノア/ヴォクシーディスプレイオーディオ ▲ディスプレイオーディオの標準装着に積極的なのがトヨタ。新型ノア/ヴォクシーには従来より進化したタイプを新設定。音声によるカーナビやエアコンなどの操作が可能

地図アプリとディスプレイオーディオの連携は、車に通信を活用した最新のテレマティクス環境を構築できる点が大きなメリット。熱問題などに注意すれば、スマホやタブレットにアプリをインストールして使う方法は時代に合っているし、逆にスマホナビが使えないと非常に不便な時代になった、とも言えるのだろう。

さらには、各陣営が展開する音声認識によるサービス、特にAmazonの「Alexa」に関してはOSを問わず積極的な採用を行っており、今後は車と家を接続する「Car to Home」も加速するはずだ。

たかがスマホの1アプリではなく、そこには多くの可能性が秘められている。だからこそ、大手もベンチャーも攻めの姿勢を崩さないのだ。
 

ナビアプリとポータブルカーナビの同時テスト ▲サービス終了前にホンダの「internavi Pocket」(上)とポータブルナビ(下)を同時にテスト。ポータブルナビの専用機に引けを取らない性能は、随時アップデートされるアプリの特性を生かしたものだ
文、写真/高山正寛
“高山正寛

カーコメンテーター、ITSエヴァンジェリスト

高山正寛

カーセンサー創刊直後から新車とカーAV記事を担当。途中5年間エンターテインメント業界に身を置いた後、1999年に独立。ITS Evangelist(カーナビ伝道師)の肩書で純正・市販・スマホアプリなどを日々テストし普及活動を行う。新車・中古車のバイヤーズ系と組織、人材面からのマーケティングを専門家と連携して行っている。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。BOSCH認定CDRアナリスト。愛車はトヨタ プリウスPHV(ZVW35)とフィアット 500C