高効率が求められる戦後の車を象徴する1台‘49 パナール ディナX
カテゴリー: クルマ
タグ: EDGEが効いている / VINTAGE EDGE
2014/12/24
※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。
1946年から1954年まで製造された小型車。プジョー、ルノー、シトロエンと並び、フランスを代表する自動車メーカーであったパナールが作った最初の市販車である。同国のクルマより高級路線を意識して作られているため、素材や製法にもコストがかけられ、650~800ccの水平対向エンジンが用意されていた。日本には僅かながらタクシーとして使われていた個体が存在したと言われているが、その存在は非常に希少である。今回の撮影車両は古くから日本に輸入されていて、大事に保管されていた一台となる
知る人ぞ知るフランスの異色ブランド
松本 巨匠、さすがに今回の車種は巨匠でも所有していたことはないと思います。日本では知られていませんが、その歴史とメカニズムは目を見張るものがあり、フランスらしい合理的な考え方がよく分かります。
徳大寺 フランスで歴史ある自動車メーカーというとプジョーかパナールだろうな。しかしいち早くゴットリープダイムラーのガソリンエンジン製造のライセンスを取得して自動車を作ったのがパナールだ。そういう意味では最古の自動車メーカーと言ってもいい。だからフランスで歴史あるメーカーというと、パナール・エ・ルバッソールということになるな。
松本 さすが歴史的なことにもお詳しいですね。そうなんです。今回はパナールなんですよ。見つけた時には驚きましたよ。しかも、巨匠と僕のお気に入りのお店にあったんです。
徳大寺 アウトレーヴさんか。
松本 そうです。
徳大寺 それでパナールでもいろいろとあるじゃないか。60年代中頃にはシトロエンに吸収された後の24BTなど個性的なモデルがあったな。いずれにしても極めつけはエンジンなんだよ。知る人ぞ知るフランスの異色ブランド水平対向2気筒の空冷だからね。シトロエン2CVも有名だけど、パナールの方が凝っていた印象があるな。
松本 やはり2気筒ですよね、パナールというと。凄いのは内部なんです。クランクのベアリングに通常はプレーンベアリングを使うところ、なんとローラーベアリングを使っていたんです。しかももっと驚くことに、ベアリングの接触面積を減らすことにより抵抗を少なくして損失を抑えているんです。それを1947年のディナXというモデルに採用していたんです。
徳大寺 時代を考えるとそれは凄いことだな。そういえばパナールは現在では乗用車は生産しないが、軍用車は作っているよな。技術は残っているんだよ。それで、見に行くモデルはパナールのなんだ?
松本 そのディナXです。このモデルは1953年まで生産していて、その後エンジンは空冷2気筒の流れを失わず大型モデルのディナ54をデビューさせることになります。年式は分からないので見てからですね。
徳大寺 要するに、戦後のフランスの課税によって小排気量車が普及するわけだけど、その流れの1台というわけだな。しかしディナXはデザインは少々古めかしいが、たしかアルミを多用していた記憶があるんだが。
他のフランス車とも違う独特のデザインと製法
松本 確かにおっしゃるとおり、こんな保守的なデザインですけど、ボディはすべてアルミ合金なんですよ。特にシャシーはalpax社製のアルミ鋳造品を使っているんです。その恩恵でシャシーの重量は280kg、総重量が550kgですから、いかに軽いか分かりますね。
徳大寺 フランス人は凄いな。戦前、弩級の高級車も作っていたから良い素材が分かるんだな。車は今の時代、軽量化が最も労力とお金がかかるもんなんだ。飛行機メーカーとして有名で弩級の高級車メーカーとしても有名な“ヴォアザン”もそうした構想は持っていたと思うよ。そのエンジニアの一人、ルフェーブルは軽量で小排気量のモデルを考えていたんだ。シトロエンに移って才能を最大限開花した人物だけどね。そういうところも似てるな。
松本 だからこそ、1955年にパナールはシトロエン傘下に入るわけですね。パナールのエンジン内部の歯車はシトロエン特許の「ダブルシェブロン」を使っていますからね。
徳大寺 歴史を考えるとそれは必然ということでもあるな。
松本 いよいよ到着です。
徳大寺 あれだな! 独特なスタイルだな。各々を尊重するに相応しい一体化したシートだな。中央のくぼみが何とも意味深く哲学を論じるフランスらしい発想だ。
松本 コンディションも素晴らしいですね。お店の方に聞いたら、古くに日本に入れた人がいて、ずっと日本にあった個体なんだそうです。
徳大寺 なるほど。今回の特集はポルシェだったかな? パナールとの関連性を考えたら、ポルシェの場合は遠い昔だけど軍用車を設計したことが挙げられるな。それと軽量なシャシーに最適なエンジンという発想。ポルシェは現在でも追い求めているし、パナールは戦後の高効率を欲している時に考えていた。いつの時代もどのエンジニアも行き着く方向性は似てるのがよく分かるよ。
【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:3820×1440×1530(mm)
■車両重量:550kg ■ホイールベース:2130mm
■エンジン種類:水平対向2気筒 ■総排気量:610cc
【アウトレーヴ】
■所在地:東京都大田区矢口3-3-15
■定休日:火曜日
■営業時間:10:00~19:00
■tel:03-6427-5820
【関連リンク】
- AUTOREVE Web(株式会社アウトレーヴ)
※カーセンサーEDGE 2014年4月号(2014年2月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
日刊カーセンサーの厳選情報をSNSで受け取る
あわせて読みたい
あの名車は今? その後継モデルたちは……20年という時の流れは車をどう変えたのか。SL、ムルシエラゴ、911…
メルセデスの名車に乗る|W201型からSLS AMGへ。“ネオクラとAMG覚醒”をいま読み解く【カーセンサーEDGE 2026年1月号】
優先すべきはヘリテージか 経済効率? マセラティのモデナ回帰にみるブランドの価値とは【スーパーカーにまつわる不思議を考える】
R32型 スカイラインGT-Rが50万円から? あの時買っときゃ良かった……のモデルを振り返り“後悔を楽しむ”
“いまは”日本未導入のGAC(広州汽車集団)AION Y Plusに試乗してきた!
プロショップで聞いた600万円前後で狙える初代 ポルシェ マカンのリアル! 狙うは前期型の高性能グレードか? それとも後期型のベーシックグレードか?
600万円台で買えるアストンマーティンはアリか? プロフェッショナルに聞いてきた真実!
「20年後も残る車、消える車」とは? 創刊20年を機に真剣に考えてみた【カーセンサーEDGE 2025年12月号】
“日本の誇り” 日産 R35 GT-Rは果たしてスーパーカーなのか?【スーパーカーにまつわる不思議を考える】
’07 フェラーリ F430|空力とヘリテージが息づくV8ミッドシップ【名車への道】









