▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

歴史がないからこそ、型にはまらず自由に楽しめる

今回は、「ヴィンテージ湘南」で出合ったポルシェ 914について、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

多くの人にとって、ポルシェといえば911。それ以外のモデルは邪道です。

今はカイエンやマカン、パナメーラなどを街でよく見かけます。

911オーナーはどこかで「あれはポルシェじゃない」と思っているのではないでしょうか。

ケイマンのようなピュアスポーツでさえ、本物ではないと考えている人だっているかもしれないですね。

僕は反対に、911以外のポルシェは面白い存在だと思っています。

この914も好きでしたし、928が出たときも「宇宙船みたいだ」と夢見心地になったのを覚えています。

ポルシェ914(Photo:柳田由人)
▲フォルクスワーゲンとの協力体制で開発された914。それだけに生粋のポルシェファンからは邪道扱いされました▲フォルクスワーゲンとの協力体制で開発された914。それだけに生粋のポルシェファンからは邪道扱いされました

911以外のポルシェの魅力は、歴史がないことに尽きます

背負うものがないから気楽に乗れる。

きっと、911オーナーからは冷ややかな目で見られるでしょう。

でも、それすら心地良く感じるようなカジュアルさが914にはありますね。

ポルシェ914(Photo:柳田由人)
▲メーターはオーソドックスな3連。このあたりもカジュアルな雰囲気です▲メーターはオーソドックスな3連。このあたりもカジュアルな雰囲気です

みなさんはオメガから「スペースウォッチX-33」というモデルが登場したのをご存じでしょうか。

簡単にいうとスピードマスターのデジタルウォッチです。

デビュー時は多くのモノ雑誌の表紙を飾り「新時代のオメガ」ともてはやされました。

しかし歴史を重んじる本物志向のオメガファンからは見向きもされず、あっという間に生産中止に(現在は復刻版が登場しています)。

僕にはX-33がとてもカッコよく見えたので、ぜひ手に入れたいとあちこち探し回りました。

ところがどこも扱っていなくて、最終的に見つけたのはディスカウントストアのショーケースの端の方でした……。

914とX-33には、共通する雰囲気を感じます。

せっかくの挑戦を頭の固い人が潰してしまうんですよね。

もったいないことです。

かつては「ワーゲンポルシェ」と小馬鹿にされたりもしましたが、もうすぐ再評価されますよ。

今、914の中古車相場はかなり上がっているらしいじゃないですか。

きっとまだまだ上がるんじゃないですかね。

▲4気筒水平対向エンジンを運転席後方に配置しています▲4気筒水平対向エンジンを運転席後方に配置しています

テリー伊藤なら、こう乗る!

シートに座ってみるとペダルがかなり遠いですね。クラッチは全然重くない。

これなら911のように気張らず、ラフに乗れそうです

例えるなら「カップ焼きそばが似合いそう」なポルシェ。

「肩の力を抜いて楽しめる」ポルシェ。

部屋着のまま乗るのだって許されるでしょう。

でも中古車相場が今より高騰したらそうも言ってられません。

914を適当に楽しむなら今が最後のチャンスかもしれないですよ。

ポルシェ914(Photo:柳田由人)

この個体は1970年式で、1人のオーナーが50年近く大切に乗ってきたものだそうです。

オーナーが自分でやったのでしょうか。ボディには数ヵ所タッチペンでキズを塗った跡がありました。

ある意味、歴史を背負った中古車です。これが911なら「前オーナーの歴史を受け継ぐ」という発想になるでしょう。

でも914は「別の色に塗り替えちゃおうかな」と考えることにためらいがありません。

撮影中、編集スタッフのKさんがこの914を指をくわえて見ていました。

こういう車は、編集やデザイナーのように自由な発想で車を楽しめる人に乗ってほしい。

POPEYEを読んで育った30代や、40代の人が乗ってもカッコいいですよ。

歴史を重んじる人からは冷ややかな目で見られると思いますが、逆にポルシェのことをよく知らない人は「渋いのに乗っているな」と感じるのではないでしょうか。

▲フロントのボンネットを開けたスペースには外したルーフを収納できます▲フロントのボンネットを開けたスペースには外したルーフを収納できます
ポルシェ914(Photo:柳田由人)

僕なら……オレンジ色がいい感じだからキズなど気にせずオリジナルカラーを楽しみます。

履いているホイールも素敵じゃないですか。

大きくいじるところはなさそうですね。

夏になったらタルガトップのルーフを“すだれ”にして、水色と白のボーターの布をシートにかけて、ビーチチェアのような雰囲気を楽しみます。

どちらも生地屋さんで安く手に入るのでドレスアップ費用は3000円以内で収まるでしょう。

……いや、あえて崩して乗るのだから“ドレスダウン”ですね。

実は、ルーフにすだれをつけるのは、夏に僕の2CVで試しました!

太陽光が木漏れ日のように室内に入ってきて、すごくいい雰囲気なんですよ。

911じゃそんなことできませんが、914なら似合うはず。

そして代官山の蔦屋に向かって、駐車場に止めて、すだれ仕様の914を眺めながらコーヒーを飲みたい。

道行く人は驚きますよ(笑)。

ポルシェ914(Photo:柳田由人)
▲夏はこのルーフをすだれにして、シートもビーチチェアのようなボーダーにする。これくらいぶっ飛んだことを躊躇なくできるのが邪道の魅力です ▲夏はこのルーフをすだれにして、シートもビーチチェアのようなボーダーにする。これくらいぶっ飛んだことを躊躇なくできるのが邪道の魅力です

みんなでこれくらいバカげたことをやっちゃいましょうよ!

周囲から指をさされても押し通さないと。

トラディショナルが当たり前だった時代に、ヒッピーは破れた洋服にワッペンを貼って楽しんだ。

頭の固い人から白い目で見られたスタイルも、今ではひとつの文化になっています。

僕らも新しい文化を作るという気概をもって、914を着崩しましょう!

▲914を見ているといろいろなアイデアが湧いてきます。価値が上がるとふざけづらくなるので、乗るなら早めに! ▲914を見ているといろいろなアイデアが湧いてきます。価値が上がるとふざけづらくなるので、乗るなら早めに!

ポルシェ 914

フォルクスワーゲンとの協力体制で開発され、1969年にデビューし1976年まで製造された914。VW製の1.7L水平対向エンジンは最高出力80馬力を発生。シートの後ろにエンジンが配置されるミッドシップレイアウトになる。その生い立ちから“ワーゲンポルシェ”と呼ばれることも。911Tの水平対向6気筒エンジンを搭載した914/6も存在する。かつては200万円以下の中古車が豊富にあったが、近年は相場が上昇中。

text/高橋満(BRIDGE MAN)
photo/柳田由人

■テリー伊藤(演出家)
1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『ビビット』(TBS系/毎週木曜のみ8:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。