プジョー 205

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
クラシックカーになる直前の80、90年代の車たちにも、これから価値が上がる車、クラシックカー予備軍は多数存在する。そんな車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

走りも秀逸なフレンチハッチの教科書みたいなモデルだね

――いずれ名車になるであろう予備軍を取り上げるこの企画ですが、リーズナブルな大衆車が出るとちょっと嬉しくなりますよね。

松本 大衆車ってたくさんあるけど基本的には珍重されない運命なんだよね。だから必然的に絶滅していっちゃうんだよ。シトロエン 2CVだってかなり長い間生産していたけど最近はめっきり見ないでしょ? 中古車市場でもそうだもんね。ルノー 5(*1)も見なくなったし。

――ちょっと前まで普通に見かけてた車なのに、ここ数年で見なくなってきたモデル。今月はそんな車にしてみたんですよ。前から取り上げたいと思っていたプジョー 205です。

松本 いいじゃない。よく見つかったね。

――当企画お馴染みのコレツィオーネさんの物件は常にチェックしてますから(笑)。

松本 この車だね。いいじゃない。状態も良いし、限定車のブロンシュだね。
 

マセラティ シャマル

――プジョーってピニンファリーナデザインのイメージが強いですよね。

松本 うーん。まぁ「ピニンファリーナの協力のもとにデザインされた」と言った方がいいかもしれないね。ピニンファリーナとプジョーは50年代から関係があるんだ。

当時ピニンファリーナは自国以外のデザインを一国一社とすることを条件としていたんだ。日本は日産、イギリスはモーリス、フランスはプジョーだね。

――205はスポーツ色が強いイメージがありますよね? なんでですか?

松本 205はWRCグループBでも有名だったからだね。僕にとっても憧れの1台だったよ。ブリスターフェンダーのスリットとか、ピニンファリーナのフィオラバンテ(*2)が線を引いた雰囲気がちゃんと出てるんだよ。

そういえば知り合いが205SRDというディーゼルに乗っていてね。何度か後ろの席に座ったことがあるんだ。シートがたまらなく良かったなぁ。

――日本ではGTIが有名ですよね?

松本 そうだね。205GTI(*3)はエンスージアストならみんな知ってるし、好きな人も多いよね。1.6Lと1.9Lがあって、1.6Lの方がチューニング度が高いんだよ。

エンジンが気持ちよく回って箱根をスイスイと走れる。サスペンションも粘り強くてね。日本のワインディングロードとの相性も良かったんだよ。見た目以上にシートのホールド性が良くてね。

――ハッチバックだけなんでしたっけ?

松本 いや、CTIというカブリオレも有名だよ。あれはカッコイイというかオシャレだよ。今見てもカワイイしね。ああいう小粋な小さい車に乗って買い物に行けたら素敵だよね。

ちなみにCTIは完全なピニンファリーナ製なんだよ。ピニンファリーナはカブリオレやスパイダーとか、オープンボディの車を作るノウハウを持っている会社だったんだ。

これはアルファロメオの話だけど、ジュリエッタはスパイダーがピニンファリーナでスプリントがベルトーネ(*4)だったんだけど、断然ピニンファリーナの方が作りが良くてドアの立て付けとかボディが歪みにくかったんだよ。

そういった話からもピニンファリーナの凄さがわかるよね。プジョーはそうした技術の高さをよく知っていたんだと思うよ。
 

マセラティ シャマル
マセラティ シャマル

――この車も限定車ですけど、この時代ってこういう少数生産のモデルもちょこちょこありましたよね?

松本 そうだね。205だと僕が好きだったのはラコステとコラボした205だね。なんだか邪道かもしれないけどシートが良かったんだよ。これぞフランスっていうシートの出来とデザインでさ。

――ブロンシュはどんな仕様なんです?

松本 これは1992年にル・マンでの優勝を記念して作られた限定車なんだ。ル・マンと205って面白い関係でね。205のデザインを切り盛りした人にジェラルド・ウェルターという人がいたんだ。

この人はル・マンに精通していて自分自身でもレーシングチームを持っていてね。プジョーに勤めながら自らのチームをマネージメントしていた人なんだ。プジョーのル・マンへのワークス出場も、このウェルター氏が導いたんだよ。

――なるほど……。意味深いモデルなんですね。

松本 そうだね。色も205っぽくていいしね。最初に話したとおり、205も徐々に良い状態の車が減ってるから、こうした限定モデルはどんどん手に入らなくなるよね。だからこういった車を手に入れた人には、大事に乗ってもらいたいなって思うよ。
 

マセラティ シャマル
マセラティ シャマル

■注釈
*1 ルノー 5
日本では「サンク」と呼ばれることが多いルノーのハッチバックモデル。1972年から発売され、世界初の樹脂製バンパーを備えていた。

*2 フィオラバンテ
レオナルド・フィオラバンテ。ピニンファリーナのチーフデザイナーとして活躍し、フェラーリの206GTや365GTB/4などを手がけた。

*3 205GTI
205に設定された上位のスポーツグレード。軽いボディにパワフルなエンジンを積んだホットハッチの代表的な存在として人気も高い。

*4 ベルトーネ
スカリオーネやジウジアーロ、ガンディーニなどを生み出した名カロッツェリア。1912年に設立した名門だが2015年に倒産している。
 

プジョー 205(初代)

1983年から1998年まで製造されたハッチバックモデル。カブリオレボディも存在し、そちらは設計と生産をピニンファリーナが担当していた。ベーシックな1.4、1.6、1.9Lエンジンを搭載したモデルの他にディーゼルやスポーティなGTI、競技参加用のラリーなども設定されていた。
 

※カーセンサーEDGE 2020年4月号(2020年2月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏