house ▲垂れ壁(天井から下方へ垂れ下がるような壁)によって生まれた横長の開口部。ほぼすべての空間がこの横長の開口部によって繋げられている。ソファの隣にある458スパイダーの後ろには鏡があり、周囲を映すため、実際以上に空間が広がって見える


リビングから愛車が見えるガレージハウスに憧れる人は多い。大きな窓から愛車の全景が見えるようにしたり、あえて美しいラインだけを窓で切り取るようにしたり……。今回訪れたガレージハウスでは、ソファの隣に愛車を置けるだけでなく、その見せ方にも建築家の緻密な計算が隠されていた。
 

「車のある風景」が延々と続いていく室内

低く、堂々と構える車たち。その造形には、施主だけでなく建築家も魅せられた。「車8台、バイク5台、自転車4台が収められて、リビングから眺められる平屋」という施主からの要望を受けたのは建築家の山縣洋さん。

条件は明快。けれど内容は特殊。まずは車8台を見せてもらった。すると「マクラーレン、ロータス、フェラーリ、ポルシェ……どれも美しい車でした」。

デザインが優れているだけでなく、共通するのは、いずれも車幅が広くて全高が低いこと。「全高が1.2m 以下の車もあるなど、その低さ自体が非日常的なスケール」。そこから“ワイド&ロー”という概念を建築に取り入れるアイデアが生まれた。

こうして横幅が約6m×高さは約1.9mという、横長の開口部が空間を繋いでいくガレージハウスが完成した。
 

house ▲現在の愛車はフェラーリ 458スパイダー、マクラーレン 600LT、ポルシェ 997 GT3 RS、964型911、ボクスタースパイダー、カイエンターボ、ロータス エリート シリーズ1、ロータス ヨーロッパ、トヨタ 86
house ▲車の後ろ側は収納スペース。友人たちと車を眺めながら飲食できるよう、冷蔵庫も隠されている。釣りやラジコンと多趣味な施主の道具も収納

車8台分のガレージに加えて、リビングの隣に1台だけ置ける、ちょっとした特設ステージを用意。このステージとリビングの天井高は、どちらも3mほどあるが、あえてその間に横長の開口部を備えることで余分な空間を隠し、ステージ上の低い車の美しさをより引き立てている。
 

house ▲リビング横の特設ステージの入り口は、大きな2枚の開き戸が備わる。その手前には車を転回できる広いスペースがあるので容易に出し入れできる
house ▲浴室から出ると、リビングとの間にある中庭越しにこのような景色が見える
house ▲リビング側と異なり、ダイニング側は視線が抜けた先に緑とガレージ内の愛車が見える。同じ空間から見える景色も視線を変えると表情が変わる

それだけではない。リビングからガレージ奥へと視線を移すと、“車のある景色”が延々とループする。これはリビングと反対側のガレージ壁面が鏡になっているからだ。
 

house ▲リビングからガレージを眺めると、ガレージ奥の鏡に愛車やリビング側の景色が映り込む。まるでガレージが延々と続いているかのように見える

こんなふうに、幾重もの横長フレームは、車だけでなく絶妙に配された中庭の緑も取り込み、約280坪という広い敷地にある「平屋」の表情を様々に切り取ってくれる。

横長フレームの“メイン素材”である車を所有する施主は、スーパーカー世代。美しい車を飾っておくのではなく、走らせる派。しかも、ハーレーでアメリカを横断したほどのバイク好きでもある。

かつての自宅では計13台にものぼる車やバイクは収まりきらなくなり、点在せざるを得なくなった。

「せっかく惚れ込んで買った愛車たちを目の届くところに置きたい!」。そんな思いが、このガレージハウスに繋がった。

最近、施主は古い車にも興味があるという。新しい車はすぐにエンジンがかかるけれど、キャブ車はキーをひねって、燃料ポンプの作動音を聞き……。「それが楽しい」。

だから今度はリビング脇のステージに、ロータス ヨーロッパを置いてみたいと言う。その次にステージに上がれる愛車は、さてどの車になるのだろうか。
 

house ▲寝室などのプライベートゾーンへ続く渡り廊下。アメリカでのツーリングや、サーキット走行の写真など、施主の思い入れのあるグッズが飾られている
house ▲8台分のガレージ。自分と同い年のロータス エリートは、取材時フルレストア中。空いたスペースには現在シミュレーターやソファを置いている

■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:949.36㎡
■建築面積:398.00㎡
■延床面積:398.00㎡
■設計・監理:山縣洋建築設計事務所
■TEL:044-931-5737

※カーセンサーEDGE 2023年6月号(2023年4月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘 写真/尾形和美