ボルボ C30▲デビュー当時はボルボらしくないと言われていたC30ですが、それがボルボらしさでもあるのです


~ カーセンサーEDGE.net連載「功労車のボヤき」 ~
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。

誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。

耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。今回は、曲線的な見た目が特徴的な、ボルボ C30が物申す!!

立ちふさがるのはヘラジカよりも世間の声

1927年の創業以来、私たちボルボ一族は、いつも「自分らしく」をモットーに一生懸命に生きてきたわ。

ご存じないかもしれないけど、「3点式シートベルト」を最初に発明したのは、なにを隠そう私たち。1959年のことよ。

今じゃどこのメーカーも安全性を訴えているけれど、私たちはずっと安全であること、頑丈であることにこだわり続けてきたわ。

私たちの故郷、スウェーデンでは運転中に巨大なヘラジカと衝突することもあるから、なによりも強靱なボディが求められたの。

もちろん頑丈なだけじゃなくて、車内外の人に対する安全性にもこだわってきた。その一途な思いが、今の「ボルボ=安全」というブランドイメージの構築につながったのよ。

目標に対して、つねにシンプルに実直に向かい合うこと。その美学こそが、私たち一族の伝統であり、つまり「らしさ」ってわけ。

あぁ、それなのに……。

四角いボディじゃないとボルボらしくない、と言われ……(四角じゃなくたって安全であることに変わりはないのに)

無骨な内装じゃないとボルボらしくない、と言われ……(北欧デザインの国なのに)

私たちの前に立ちふさがる強固な壁は、ヘラジカよりも、そんな世間の声だったのよ。
 

ボルボ C30 ▲従来のスクエアなボディとは異なった曲線的なデザインのC30
ボルボ C30 ▲内装は伝統的なスカンジナビアデザイン

ボルボらしさとは個性的であること

そんな風評被害(?)を、いちばん被ったのが私、C30じゃないかしら?

2006年にデビュー(日本導入は2007年)すると、真っ先にマーケットから聞えてきたのは、四角い石頭たちからの「ボルボらしくない!」の大合唱……。

それはつまり、私が、あまりにお洒落で小粋で、若々しくスポーティで、未来的で洗練された車だったからって事実の裏返しでもあるわね。自分で言うのもナンだけど。

この際だから四角い石頭さんに教えてあげるけど、「頑丈であること」だけが私たち一族のアイデンティティではないのよ。

70年代には、優美でスタイリッシュなボディデザインの1800ESが人気を集めたわ。ちなみに私のお洒落なグラスハッチは、その1800ESオジサマから引き継いだものよ。

80年代には、人気の240ターボを武装してレースにも参戦したのよ。見た目は無骨なのに走りは凄いから「空飛ぶレンガ」なんて呼ばれたわ。

そんな歴史もある一族だから、お洒落で小粋で、若々しくスポーティで、未来的で洗練された私(しつこい?)も、ある意味では「ボルボらしい」車なの。

ボルボらしさとは、つまり個性的であることなわけ。だから「ボルボらしくない」ってご批判は、「ボルボらしい」という賞賛でもあるのよ。

おわかりかしら? 石頭さん
 

ボルボ 1800ES
ボルボ 1800ES ▲こちらが1800ES。特にリアまわりは、C30に通ずるものがある
ボルボ 1800ES ▲レースで活躍した空飛ぶレンガこと240ターボ

比べるものがない孤高の存在

リアのグラスハッチが魅惑的と言われるけど、なによりも私の最大のチャームポイントは「いちばん小さなボルボ」ってことね。

卓越した安全性能はもちろんのこと、北欧で磨かれたデザインセンス、走りの良さ、そんなボルボ一族ならではの魅力が、コンパクトな3ドアハッチバックのボディにギュッと凝縮されてるの。

ボルボ家のステーションワゴンが家族向けだとするなら、小柄な私は、独身の若い世代やもう子育ての終わったシニア層、大きな車の運転が苦手な女性なんかに人気を博したわ。

デビュー当時、ライバルはアウディ家のA3なんて言われたけど、ま、私の個性をもってすれば競争相手にはならなかったわね。比べるものがない孤高の存在……。それが、我がボルボ一族の誇りでもあるのよ。

安全で実用的なコンパクトカーであり、お洒落な3ドアハッチバックカーであり、フル4シーターのスポーティカーでもある、そんな様々な顔をもつ私……。

あぁ、それなのに……。

カーセンサーnetで検索してみれば、ヒットするのは全国で、たったの20数台……。しかも、平均価格は35万円程度……。

美貌ならお金さえ出せば、いくらだって手に入れられる時代だわ。だけど、個性はお金では買えないの。その個性が、今やなんと35万円で手に入るのよ。

アウディ? ビーエム?

まだ、そんなことを言ってるの? 石頭さん。
 

ボルボ C30 ▲こちらはマイナーチェンジされた後期モデル。フェイスリフトされ、より精悍な顔付きになった

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ボルボ C30(初代)×全国
文/夢野忠則 写真/尾形和美、ボルボ
夢野忠則

ライター

夢野忠則

自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。