【功労車のボヤき】「ボルボらしくない」ってことは、「ボルボらしい」ってことなのよ。ボルボ C30
2021/12/09
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。今回は、曲線的な見た目が特徴的な、ボルボ C30が物申す!!
立ちふさがるのはヘラジカよりも世間の声
1927年の創業以来、私たちボルボ一族は、いつも「自分らしく」をモットーに一生懸命に生きてきたわ。
ご存じないかもしれないけど、「3点式シートベルト」を最初に発明したのは、なにを隠そう私たち。1959年のことよ。
今じゃどこのメーカーも安全性を訴えているけれど、私たちはずっと安全であること、頑丈であることにこだわり続けてきたわ。
私たちの故郷、スウェーデンでは運転中に巨大なヘラジカと衝突することもあるから、なによりも強靱なボディが求められたの。
もちろん頑丈なだけじゃなくて、車内外の人に対する安全性にもこだわってきた。その一途な思いが、今の「ボルボ=安全」というブランドイメージの構築につながったのよ。
目標に対して、つねにシンプルに実直に向かい合うこと。その美学こそが、私たち一族の伝統であり、つまり「らしさ」ってわけ。
あぁ、それなのに……。
四角いボディじゃないとボルボらしくない、と言われ……(四角じゃなくたって安全であることに変わりはないのに)
無骨な内装じゃないとボルボらしくない、と言われ……(北欧デザインの国なのに)
私たちの前に立ちふさがる強固な壁は、ヘラジカよりも、そんな世間の声だったのよ。
ボルボらしさとは個性的であること
そんな風評被害(?)を、いちばん被ったのが私、C30じゃないかしら?
2006年にデビュー(日本導入は2007年)すると、真っ先にマーケットから聞えてきたのは、四角い石頭たちからの「ボルボらしくない!」の大合唱……。
それはつまり、私が、あまりにお洒落で小粋で、若々しくスポーティで、未来的で洗練された車だったからって事実の裏返しでもあるわね。自分で言うのもナンだけど。
この際だから四角い石頭さんに教えてあげるけど、「頑丈であること」だけが私たち一族のアイデンティティではないのよ。
70年代には、優美でスタイリッシュなボディデザインの1800ESが人気を集めたわ。ちなみに私のお洒落なグラスハッチは、その1800ESオジサマから引き継いだものよ。
80年代には、人気の240ターボを武装してレースにも参戦したのよ。見た目は無骨なのに走りは凄いから「空飛ぶレンガ」なんて呼ばれたわ。
そんな歴史もある一族だから、お洒落で小粋で、若々しくスポーティで、未来的で洗練された私(しつこい?)も、ある意味では「ボルボらしい」車なの。
ボルボらしさとは、つまり個性的であることなわけ。だから「ボルボらしくない」ってご批判は、「ボルボらしい」という賞賛でもあるのよ。
おわかりかしら? 石頭さん
比べるものがない孤高の存在
リアのグラスハッチが魅惑的と言われるけど、なによりも私の最大のチャームポイントは「いちばん小さなボルボ」ってことね。
卓越した安全性能はもちろんのこと、北欧で磨かれたデザインセンス、走りの良さ、そんなボルボ一族ならではの魅力が、コンパクトな3ドアハッチバックのボディにギュッと凝縮されてるの。
ボルボ家のステーションワゴンが家族向けだとするなら、小柄な私は、独身の若い世代やもう子育ての終わったシニア層、大きな車の運転が苦手な女性なんかに人気を博したわ。
デビュー当時、ライバルはアウディ家のA3なんて言われたけど、ま、私の個性をもってすれば競争相手にはならなかったわね。比べるものがない孤高の存在……。それが、我がボルボ一族の誇りでもあるのよ。
安全で実用的なコンパクトカーであり、お洒落な3ドアハッチバックカーであり、フル4シーターのスポーティカーでもある、そんな様々な顔をもつ私……。
あぁ、それなのに……。
カーセンサーnetで検索してみれば、ヒットするのは全国で、たったの20数台……。しかも、平均価格は35万円程度……。
美貌ならお金さえ出せば、いくらだって手に入れられる時代だわ。だけど、個性はお金では買えないの。その個性が、今やなんと35万円で手に入るのよ。
アウディ? ビーエム?
まだ、そんなことを言ってるの? 石頭さん。
▼検索条件
ボルボ C30(初代)×全国ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。
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