マセラティクアトロポルテ▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

いつまで経ってもマセラティは『向こう側』の車

今回は、「アウトピッコロ」で出合ったマセラティ クアトロポルテについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

僕はマセラティに対して、いいイメージを持っていませんでした。長く忘れられていたブランドだったのに、ある日『名門復活』という形でもてはやされるようになりましたが、その様子を見て「そんなこと言われても知らないよ」と感じていました。

僕が若い頃、マセラティというブランド名を口にする人はほとんどいなかったと思います。ブガッティやマイバッハもそう。名門と言われても過去の栄光を知らないからリアクションのとりようがなかったのです。

小説の影響もありマセラティ=ダンディズムというイメージを抱く人も多かったと思います。でも僕はそれすら「面倒だな」と感じていたのです。

マセラティクアトロポルテ
マセラティクアトロポルテ▲ピニンファリーナに在籍した奥山清行氏がデザインを担当したことで知られている

2000年頃まで、日本でもローバーというブランドが日本で展開していたのを覚えている人も多いでしょう。

ローバーといえばミニが人気でしたが、ハッチバックの200シリーズ、ミドルセダンとステーションワゴンの400シリーズ、高級サルーンの800シリーズなどが販売されていましたが、僕はローバーの車を見て「真面目な銀行員が乗っていそうだな」と妄想していました。

そしてマセラティにも同じようなイメージを抱いていたのです。

「なんだかイタリアの銀行の役員が乗っていそうだな」

いい車なのはわかっているけれど、どうやっても心がときめかないのです

マセラティクアトロポルテ▲タイヤサイズはフロントが245/45ZR18、リアが285/40ZR18になる

そんなマセラティの印象が少し変わったのは、1998年にデビューした3200GTを見てからです。ボディラインに沿った八の字の細いテールランプに色気を感じました。

それでもビートルをはじめ、小さな車が好きな僕にとって、やっぱりマセラティは『向こう側』の車でした。この車はイタリア好きのお金持ちがゴルフ場に行き、会員制クラブで遊ぶためのもの。成熟した大人のための遊びグルマというイメージが拭えなかったのです。

マセラティクアトロポルテ▲最初はね、『突然ハードボイルドなんて言われてもついていけないよ』と感じていたんですよ

今はSUVが全盛の時代。日本でもクラウンがクロスオーバースタイルに生まれ変わりました。トヨタはすごく頑張っていますよ。

ただ、新しいクラウンを見て感じたのは、「若い人を取り込みたい」という意思です。マセラティのように本当の意味で『大人のための車』という感じではない。もしかしたらマセラティのような車は椅子の文化が根付いた国じゃないと生まれないのかなと感じました。

テリー伊藤ならこう乗る!

マセラティクアトロポルテ▲インテリアは、ダッシュボード、シート、ステアリング、パイピング、ステッチなどを数百万通りの組み合わせから選ぶことができた

ところが今回の取材でクアトロポルテに試乗させていただき、僕の中でマセラティに対する印象がガラリと変わりました。

特に驚いたのがインテリア。決して奇をてらったことはしていないのに、繊細で上品ないでたちはまるで仕立てのいいオーダーメイドのスーツのよう。革の色もいい。基本に忠実で気負いがないのにどこまでも上品。まるで大人の男性がゆったりと喋っているようなイメージです。こういうデザインは日本車ではなかなかできないですよね。

これまでまったく興味はありませんでしたが、「マセラティの魅力はこういうことだったのか」と感心しましたね。

マセラティクアトロポルテ▲4.2L V8エンジンはイタリアのマラネロにあるフェラーリファクトリーで作られた

残念ながら取材当日は土砂降りの雨。試乗はショップの方に運転していただき一般道を短時間乗っただけ。それでもクアトロポルテに搭載されるV8エンジンの素晴らしさが伝わってきます。

前回スマート ロードスターを取り上げた際に僕は「軽さは正義である」と話しましたが、車にはもうひとつの正義があります。それは「走りの良さ」。クアトロポルテは車両重量が2tを超えるのに、重さをものともせず優雅に走ってくれます。これは素晴らしいことですよ。

マセラティクアトロポルテ
マセラティクアトロポルテ▲インテリアの仕立ての良さは言葉を失うほど。現在でもしっとりとした触感が残っていた

もし僕がクアトロポルテに乗るなら、まずは車を買う前に自分を演出します。例えば、古いイギリス車に乗ると決めたら、たとえ最近買ったとしてももう20年も30年もイギリス車に乗り続けているという雰囲気を出すために古いツイードのコートを手に入れて、「僕はイギリスの田舎の方でうだつの上がらないサラリーマンをやっているんだ」というイメージを演出します。

こうやって妄想しながら車に乗ると、普通に乗るより何倍も楽しいのですよ。

マセラティなら僕はイタリアンスーツを着てきちんとネクタイを締めて運転します。あえて、よそ行きの格好で背伸びをするのが車の雰囲気に合っていますよ。エスコートする女性にもスカートを履いてもらい、2人ですましながらドライブを楽しみたいですね

マセラティクアトロポルテ▲6速セミオートマチック「デュオセレクト」のシフトレバー

SUVやミニバンはカジュアルな車の代表格。運転するときも、楽だからとスウェットパンツなどを着ていることが多いのではないでしょうか。楽なスタイルばかりだと、スーツのようにきちんとした洋服を着るのが窮屈に感じるかもしれません。

でも不思議なもので、人間の体って最初は大変と感じてもだんだんと慣れてくるものです。

ある小料理屋で食事をしたとき、僕は女将さんに「毎日着物を着ていて疲れない?」と訪ねました。すると女将さんは笑ってこう返しました。

「私はこっちの方が楽なんですよ。毎日着物を着ているからかしら」

スーツでマセラティを運転するのも、すぐに慣れます。きっとそのとき、もうひとつの自分の姿に気づいて楽しくなるはずですよ。

マセラティクアトロポルテ▲エスコートする女性と2人で非日常を味わいたいね

マセラティ クアトロポルテ

1997年にフェラーリの子会社となったマセラティが2003年のフランクフルトモーターショーで発表した5代目クアトロポルテ。エクステリアデザインは当時ピニンファリーナに在籍していた奥山清行氏が担当した。エンジンは4.2L V8で、トランスミッションは6速セミオートマチックの「デュオセレクト」を搭載。2007年にはZF社と共同開発されたオートマチックトランスミッション搭載車を追加。その後、2008年のマイナーチェンジでデュオセレクトが廃止された。ちなみにクアトロポルテとは4ドアの意味。
 

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/柳田由人

テリー伊藤

演出家

テリー伊藤(演出家)

1949年、東京・築地生まれ。早稲田実業高等部を経て日本大学経済学部を卒業。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」「浅草橋ヤング洋品店」など数々のテレビ番組の企画・総合演出を手掛ける。現在は演出業のほか、タレント、コメンテーターとしてマルチに活躍している。テリーさんの半生を綴った「出禁の男 テリー伊藤伝」(イーストプレス)が発売中。TOKYO MXでテリーさんと土屋圭市さんが車のあれこれを語る「テリー土屋の車の話」(毎週月曜26:35~)が放送中。YouTube公式チャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』も配信中。