軽自動車は使いやすさ=満足感ではない?【タントカスタム編・東京スマート軽ライフ】
2016/08/08
自動車ライター、塩見智さんが軽自動車に約1ヵ月間乗り、東京での軽ライフをリポートする「東京スマート軽ライフ」。高級車が溢れる東京での軽ライフを赤裸々につづっていく。今回はタントカスタム編の最終回。

広い室内に軽快な走り……軽とは思えない質の高さに感動
今週でタントカスタムでの軽ライフは終了する。ひと月というのはちょうど愛着がわいてくる頃で、アルトワークスに続いて別れがつらい。この車を日常的に使ってみて感じたのは、従来の軽自動車の水準を完全に超えているということだ。実用的には。ただし精神的な満足感は必ずしもそうではない。それぞれ説明したい。
まず実用面。定員である大人4人がゆったりと座ることができるスペースが確保されており、広さの面で不満を覚えることは一切なかった。車幅の制限からくる車内の左右幅の物足りなさを天地方向の広さでうまくカバーしているという印象を抱いた。前後スライド可能なリアシートを一番前へセットした状態でも、膝もとに大人がきゅうくつな思いをすることなく座ることができるスペースが残る。その状態であれば、軽自動車に望みうる最大級のラゲージ容量が確保される。しかも左右独立してスライドさせることもできる。家族のライフスタイルは多様だが、多くの4人までの家族にとって十分のスペースが、タントカスタムにはある。
室内の広さだけでなく、使いやすい大画面のカーナビ、よく冷えるエアコン、使い切れないほどの小物入れなど、日常の使い勝手がよく研究された、使いやすい機能やレイアウトに感心させられた。加えて、ダッシュボードまわりやシートなど、体が触れる部分と目に見える部分の品質が軽自動車としては異例に高い。ドアが閉まるときも、バシーンといつまでも耳に残る低級音は聞こえず、バンッと短く響くのみ。昔のベンツかよっ!
4人が楽々乗車できても、4人乗るとパワー不足を感じるのではないかという事前の予想は覆った。タントカスタムは車重960kgと軽自動車の中では重量級だが、4人乗ってさらに重くなっても、実用上最低限のパワーが確保される。わずか最高出力64psにも関わらずそう感じるのは、CVTのチューニングによるところが大きいはずだ。発進時、アクセルペダルをさほど深く踏まずとも車は進み、ほどなく望むスピードに達する。高速道路では制限速度の100km/hを少し上回るスピードで流れていることが多いが、その程度の速度域までなら周囲に迷惑をかけることはない。そして全開加速時を除けば車内は十分静かだ。アルトワークスでは純粋に加速の鋭さに驚いたが、タントカスタムでは重さのわりに軽快なことに驚いた。

生活感漂う軽でおしゃれな東京ライフは難しい!?
一方で、使いやすさを何よりも優先したデザイン、レイアウト、各種装備となっているだけに生活感が漂う。近所を走り回るためのセカンドカー、サードカーとしては間違いなく一級品だが、東京の街を軽でおしゃれに楽しむ「東京スマート軽ライフ」という視点で見ると、生活くささが満足度を減らしてしまうかもしれない。都心で華やかなスポーツカーやSUVなどに囲まれた際、なぜだか若干気後れするのだ。この点、アルトワークスだったら走りが好きで選んだんだろうなと思ってもらえる可能性もある。生活感漂うタントカスタムでは、”趣味で選びました感”は演出しにくい。
東京スマート軽ライフが目指す理想の軽自動車は、品質や機能性が高いだけでは十分ではない。わざわざその車を選んだと自分で思える、また周囲にそう思ってもらえるような1台であることは必要。
次回はスズキ アルトラパン。アルトはアルトでもワークスとはまるでコンセプトの異なる車だ。ここまでの2モデルはターボ付きだったが、ラパンは非力な自然吸気エンジンを搭載する。そのあたりも考察していきたい。
【筆者プロフィール】
1972年、岡山県生まれ。自動車雑誌編集部を経て、フリーランスの自動車ライターへ。軽自動車好き。SUV好き。「カーセンサーnet」をはじめ、「GQ Japan」「GOETHE」「webCG」「carview!」「ゴルフダイジェストオンライン」などにて執筆中。
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