少しの不便さが気にならないほどデザインがいい! 90年代のカルチャーを体現するゴルフカブリオ(初代)
2025/08/27

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
利便性より心が動く、あの頃の空気感がこの車にはある!
91年式のフォルクスワーゲンのゴルフカブリオを所有するグラフィックデザイナーの笛木さん。
彼にとって、多感な時期に触れた90年代初頭のポップカルチャーは今なお自身の美意識の基準となっているという。音楽、ファッション、映画、そしてもちろん車の好みも。
「以前にも、このゴルフと同年式のビュイック リーガルワゴンに乗っていたことがあるのですが、義理の母を病院へ送迎する必要があってマツダ CX-5に乗り替えたんです。でもやっぱりまた古い車に乗りたいと思ってスピニングガレージさんを訪れたら……」
スピニングガレージとは、フォルクスワーゲンのゴルフ2を専門に扱う有名ショップ。青春時代を彩った憧れの車をちょっと見に行くぐらいの軽い気持ちで同店を訪れた笛木さんは、そこに並んでいたゴルフカブリオを目にして、思いがけず「ときめいて」しまったそう。
そもそもオープンカーを買うことすら想定していなかったとのことで、そのイレ込みっぷりが相当なものだったことがうかがえる。

乗り出し価格は約100万円。塗装のかすれたボンネットや、傷んだ幌など、外装のコンディションはお世辞にも綺麗とはいえないが、エンジンをはじめとする機関はしっかり整備されているとのこと。
この実直さは、いかにもスピニングガレージの販売車という印象を受ける。誠実で頼りがいのあるお店のスタッフさんの対応も、購入の決め手になったそう。


「あの時代のカルチャーってありとあらゆる文化がミックスされていて面白かったですね。若い頃は東京・代官山のデザイン事務所に勤めていたんですが、当時はまだインターネットなんて普及していなかったから、仕事終わりの深夜に六本木の青山ブックセンターで雑誌や写真集をあさって、当時のカルチャーを貪欲に吸収していました。そんな中で、ビジュアルでモノを選ぶ習慣が自分の中に定着したように思います」
その言葉どおり、笛木さんは愛車の魅力を内外装の「デザイン」だと言い切る。自動車の設計や製造技術の進化とともに失われていった、シンプルで直線的な内外装デザイン。そこに、当時の空気感を色濃く感じるという。
「よく『最初はカタチから入りましたが~』みたいな話ってありますよね。でも僕は、車に限らず『カタチで始まり、カタチで終わる』タイプです(笑)。とにかくそこに魅了されてしまったら抜け出せないんです」

笛木さんはこのゴルフカブリオを日常の足として使っている。現代の車と比べると足りない部分はいろいろあるが、好きなインテリアに囲まれてドライブする楽しさが、ちょっとした不便さを凌駕するという。
時には荷物をパンパンに積み込み、キャンプやフェスなどへ出かけることもあるが、高速走行中の音はなかなかのもので、少し声を張って助手席のパートナーと会話をするという。
今のところ、目立った故障は発生していない。もっとも、“故障”の定義はオーナーの車に対する度量によっていかようにも変わる。笛木さんの場合はどうだろうかと、雨の日のドライブの様子を聞いてみると――
「大雨のときは雨漏りするので、足やシートの上に雑巾を置いて運転するようにしています」と、あっけらかんと答えてくれたので、思わず笑ってしまった。
古い車と付き合うには、これくらいおおらかに受け入れるマインドの方が、幸福度は高いはずだ。ちなみに、所有してから長期入院が必要になるような大きなトラブルは一度だけとのこと。


せっかくなので、トップを開けてもらった。笛木さんの愛車は電動トップ採用の後期型だが、この日は開閉機構がうまく作動せず、手動で操作することに。「調子がいいとちゃんと動くのですが……」と笑いながら、慣れた手つきでオープンスタイルを披露してくれた。
お気に入りの映画のTシャツとビーチサンダル姿の笛木さん。古いゴルフカブリオ、真夏の日差し、青い空……。
未来に夢があふれていた、あの時代の空気感は、笛木さんの個人的なノスタルジーを抜きにしても、十分すぎる魅力を放っている。
▲トランクの中を操作してトップを手動で開ける笛木さん
▲笛木さんは車を降りるとき、夏場はサンダルに履き替えて開放感を味わうそうだ▼検索条件
フォルクスワーゲン ゴルフ×全国
笛木さんのマイカーレビュー
フォルクスワーゲン ゴルフカブリオ(初代)
●購入金額/100万円
●年式/1991年式
●年間走行距離/5000km
●マイカーの好きなところ/カタチ、フォルム。乗っているだけでテンションが上がる
●マイカーの愛すべきダメなところ/大雨時の雨漏り。でも不便さは感じない
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/このフォルムが好きな人は絶対気に入るはず!

ライター
佐藤旅宇
オートバイ専門誌と自転車専門誌の編集記者を経て2010年よりフリーライターとして独立。様々なジャンルの広告&メディアで節操なく活動中。現在の愛車はフォルクスワーゲン クロスUP!と日産 ラルゴの他、バイク(HONDA)とたくさんの自転車。
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