▲1976年から89年まで製造された6シリーズ(E24型)は、その見事なスタイリングにより「世界で最も美しいクーペ」と賞賛を受ける ▲1976年から89年まで製造された6シリーズ(E24型)は、その見事なスタイリングにより「世界で最も美しいクーペ」と賞賛を受ける

自動車史に燦然と輝く世界で最も華麗なクーペ

78年に追加されたハイパフォーマンスモデルが635CSiだ。専用の3.5Lエンジンやエクステリア、スムーズでパワフルなエンジンが与えられ、世界中から賞賛を浴びた。83年にはM1に搭載していたM88エンジンを積んだM635CSiも登場している。今回の車両はエンジンやミッションなどをオーバーホールし、タイヤまでオリジナルにこだわった一台。

徳大寺 今回はBMWだね。BMWっていう会社は上品だな。しゃしゃり出ないところがいい。アンダーステイトメントっていうのかな。
松本ドイツ車はエンジニアの我々が“一番”という気持ちが自動車に表れがちですが、BMWは控えめなメーカーですね。その傲慢にも見えてしまう自我を上手に抑えていると思います。
徳大寺 そうなんだよな。BMWは戦後すぐ501や502といった大型の高級サルーンを作った。V型8気筒は戦後のドイツメーカーとしては一番早かったんじゃないか。6気筒と8気筒にエスタブリッシュメントを感じるのは、BMWのそういう歴史があるからなんだ。
松本 BMWはエンジンメーカーですから、他のドイツメーカーとは一線を画しているのは間違いありません。主力機関でもある原動機を作り自動車を作り込んできているのですから、その辺りには社員全員が自信や自負をもっているのでしょうね。
徳大寺 そうだね。ところで今回はBMWのどのモデルを見に行くんだ?
松本 デビューした時、世界一美しいクーペと賞賛されたモデルですよ。
徳大寺 そこまで言えば車好きならすぐ分かるだろう。633CSiか635CSiだろうな。まあ純血のレーシングユニットM88を搭載したM635CSiもあるけどな。
松本 今回は普通の635CSiですね。
徳大寺 普通の635CSiなんて言っちゃいけないだろう。1976年にデビューしたときは633CSiといって6気筒SOHCの3210ccのユニットだったんだ。もちろん“ i ”という表記があるようにボッシュのLジェトロのインジェクション仕様。633CSiが本国仕様で200馬力だったと思う。BMWの直列6気筒はとにかくスムーズなんだよ。ガサツじゃないんだ。その後ハイパワー版として635CSiが登場するんだが、218馬力でずいぶん印象が違ったな。
松本 しかしBMWになると巨匠は語りますね。僕も知ってますよ。この6気筒がとてもスムーズで品が良いことは。ブリッピングで回転を上げても乱れがないんですよね。シューン! シューン! て。僕が乗っていた1983年式のは533iという2世代目の5シリーズでしたが、若かった僕はレッドゾーンの回転が低くてオジサンぽいエンジンだと記憶していたんです。あの当時はわかっていなかったんですね。巨匠は何に乗られていたんでしたっけ?
徳大寺 633CSiを2台乗り継いだね。当時あれほど伸びやかで4人がゆったり乗れるクーペはそうそうなかったよ。しかもスタイリングは文句のつけようがないほど整っている。僕は車は格好だと思ってるんだ。いくら馬力があっても格好が悪ければ全く意味がないからね。そういう意味でも完璧だったな。
松本 同じモデルを2台乗り継いだところが巨匠たる所以ですね。しかも同じエンジン。このエンジンをよく見ると、フロント部分のプーリーにフライホイールに準ずるウェイトが取り付けられています。振動とクランクシャフトのねじれについてとてもよく考えられていますよね。さすがエンジンメーカーです。533iを見て初めてBMWってただ者じゃないと思いました。
徳大寺 今回見に行く635CSiの最高速度は225km/hだったんだ。そのときのエンジン回転数は5200回転だからね。最高出力よりもトルクが大切なのがよくわかっていたんだな。
松本 さて到着です。ホワイトですね。当時は大きいと思っていましたが、今見るとスッキリして軽やかな印象を受けますね。
徳大寺 とにかくカッコイイな。コーチワークは現在VW傘下になってしまったがカルマン社が担当したんだ。今のモデルはやたら大きいから美しくさせるのも大変なはずだ。このサイズで堂々として美しいんだからベルトーネとカルマンは密接だったことが分かる。
松本 しかしキレイですね。話によると全部オーバーホールされているそうですよ。エンジン、ミッションなど。レストアするにはかなり微妙な年代ですから、BMWを専門として商売をしていても、志がなければできませんね。
徳大寺 1970年代後半からは安全性の面から樹脂パーツを多用してるだろ。樹脂は割れると元には戻らないから、程度の良い中古部品を集めて組み立てるようになるんだろう。今後635CSiのようなモデルは貴重になるだろうな。当時美しいと言われたモデルは何十年経ったって変わらないんだよ。本当に良い車とはそういうモデルなんだよな。

▲BMW 6シリーズ 635CSi エンジン
▲BMW 6シリーズ 635CSi リア
▲BMW 6シリーズ 635CSi インパネ
▲BMW 6シリーズ 635CSi シート
text/松本英雄
photo/岡村昌宏