※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲1950~60年代、英国で最大規模を誇った自動車メーカーBMCと、エンジニア兼デザイナーであったドナルド・ヒーレーが立ち上げたのがオースチンヒーレー社。活動期間は20年間と短いが100や3000といった軽量スポーツモデルを生産。全モデルともスポーツモデルに精通するヒーレー氏らしい、抜群の走行性能、走る楽しさが与えられ、多くのファンを獲得した。スプライトは1958年から製造され初代をマーク1と呼び、その後マーク5まで進化したオープン2シーターモデル。製造は1971年まで 1950~60年代、英国で最大規模を誇った自動車メーカーBMCと、エンジニア兼デザイナーであったドナルド・ヒーレーが立ち上げたのがオースチンヒーレー社。活動期間は20年間と短いが100や3000といった軽量スポーツモデルを生産。全モデルともスポーツモデルに精通するヒーレー氏らしい、抜群の走行性能、走る楽しさが与えられ、多くのファンを獲得した。スプライトは1958年から製造され初代をマーク1と呼び、その後マーク5まで進化したオープン2シーターモデル。製造は1971年まで

シンプルだけど奥深い 英国ライトスポーツ

徳大寺 さて今日は何を見に行くんだい。
松本 今回は戦後のライトウエイトモデルの元祖と言っても過言ではないモデルですよ。
徳大寺 個人的にはMGAやMGB+が良いと思うけど、ライトウエイトスポーツカーの元祖的な存在なら1958年に登場したFROG-EYESか。
松本 そのとおりです。通称“カニ目”ですね! 戦後のモデルとはいえ、モノコック構造のライトウエイトスポーツカーは、このカニ目ことオースチンヒーレースプライトマーク1が世界で最初だったんじゃないでしょうか? 進歩的で、魅力は大衆的な価格だったことですね。伺うのはガレージ日英さんです。
徳大寺 白鳥さんのところか。あそこはホントに車に愛情を注いでいるよな。あーこれか。状態も素晴らしいね。色もいい。
松本 やっぱりカワイイですね、いつ見ても。
徳大寺 英国車は現在では想像がつかないかもしれないが、航空機産業が盛んだったこともあり、かなり進んでいたんだ。油圧ブレーキの導入も早かったし、ディスクブレーキもダンロップが開発しただろ。ドイツ車やイタリア車のスポーツカーがドラムブレーキの時代に大衆車がディスクブレーキをすでに使っていたんだ。
松本 僕はエンジンに驚いているんですよ。あの948㏄のAシリーズと呼ばれるエンジンは、鉄のシリンダーヘッドにも関わらず、相当のパワーを出すことができたんです。当時のタルガフローリオのレースシーンをビデオで見たことがあるのですが、ポルシェやアルファロメオと戦っているんですよ。シンプルだけど奥深い英国ライトスポーツ
徳大寺 あのA型はミニクーパーにも使われているけど、かなりのパワーを絞り出せるんだ。 しかも元は大衆的なファミリーセダンに使われていたエンジンだからね。その後日産がA12を作るけど、あれも同じような雰囲気を漂わせてるよ。それほど基本が素晴らしいんだ。
松本 オースチンのAシリーズユニットを調べてみると、なんとウェスレイクの設計なんですよ! 6気筒から12気筒までのジャガーのエンジンに携わり、F1のエンジンも作っていた燃焼室の魔術師のようなエンジニアですからね。
徳大寺 ほんとかよ! ウェスレイクといえば、戦前のベントレーをル・マン24時間の勝利に導いたエンジニアだね。ところで、カニ目はデザインも特徴的だよな。どうしてあの独特な目になったんだと思う?
松本 あのボディをデザインしたのは、巨匠もご存じのオースチンヒーレー100をデザインした人なんですよ。ジェリー・コーカーというエンジニアだったんですが、ヒーレーを作ったドナルド・ヒーレーが「君の思うとおりの形をスケッチしてみなさい」と言ってデザインされたそうですよ。イタリアのデザインに触発されて作られたそうですね。それとあの飛び出したヘッドライトですけど、当初はリトラクタブルタイプにしたかったそうですが、コストの問題でライトが出たままになったようですよ。
徳大寺 リトラクタブルだったらFROG-EYESなんていう愛称もつけられず人々の心にも残らなかっただろうしな。怪我の功名のような話だ。この車、スポーツカーを熟知しているヒーレーさんが作ったんだなって後ろから見ると分かるんだよ。なんだと思う?
松本 変わっているのは、トランクリッドがなくて荷物はシートを倒して入れる感じなところですよね。不便ですが雨漏りしないし、すっきりとしたデザインにもつながりますね。それとなんといっても剛性じゃないですか?

世界中でつけられた愛称が今でも高い人気の証

徳大寺 そう、そこなんだよ。スポーツカーはボディ剛性が大切だということをよく知っているんだ。だから不便でもモノフォルムにして剛性を考えたといわれているんだ。開口部があるとそれだけでコストも上がるし重くもなる。わずか43bhp(英国馬力)で楽しく運転するには、なんといっても軽さなんだ。
松本 このスプライトマーク1はベース車両がオースチンA30なんですけど、あの車はファミリーセダンで、おったって運転するような感じですよね。プラットフォームが同じでもこうも違うポジションになるんですね。ステアリングコラムの角度がまったく違いますよ。
徳大寺 そのあたりもヒーレーさんの設計は素晴らしいんだよ。既存の部品を使ってまったく違うカテゴリーのモデルを作ってしまう。それがたくさんの人々に受け入れられて車としての付加価値も高めることができる。車を知り尽くしスポーツカーの神髄を分かっていたヒーレーさんならではの作品と言えるな。

AUSTIN HEALEY SPRITE MARK I  シート
 AUSTIN HEALEY SPRITE MARK I エンジン
 AUSTIN HEALEY SPRITE MARK I 運転席周り
AUSTIN HEALEY SPRITE MARK I リア
AUSTIN HEALEY SPRITE MARK I フロント

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:3490×1349×1260(mm)
■エンジン種類:直列4気筒OHV ■総排気量:948cc

【ガレージ日英】
■所在地:東京都大田区蒲田2-11-19
■定休日:日・祝日
■営業時間:午前10時~午後7時
■tel:03-3739-2606

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2014年7月号(2014年5月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています