鈴木亜久里


車で我々に夢を提供してくれている様々なスペシャリストたち。連載「スペシャリストのTea Time」は、そんなスペシャリストたちの休憩中に、一緒にお茶をしながらお話を伺うゆるふわ企画。

今回は、1990年F1日本GPで日本人初の表彰台獲得者となり、現在はSUPER GTで総監督を務める伝説のドライバー鈴木亜久里さんとの“Tea Time”。
 

鈴木亜久里

語り

鈴木亜久里

1960年東京生まれ。幼少よりレーシングカートを始める。1988年全日本F3000選手権にてシリーズチャンピオンを獲得。そして1990年にはF1世界選手権日本GPにて、日本人初の3位表彰台を獲得。1998年より「世界に通用する日本人ドライバーの育成」をスローガンに、ARTA Projectを始動、現在はプロデューサー兼総監督としてSUPER GTシリーズに参戦している。日本自動車連盟モータースポーツ部レース部会会長も務める。

最終的な目標がF1チームオーナーだった

今年は7月にようやくスーパーGTが始まって、11月には終わりだから忙しいよね。他のレースも合わせると毎週やってる感じ。

といっても忙しいのはドライバーとメカニックで、オレは暇だけど(笑)。オーナーが忙しくなるのはチームや会社が大変なときだから、その方がいいの! むしろ忙しいのは夜だよ。営業でね(笑)。

10代でカートに乗り始めてから今まで、とにかくずっとレース、レース。1シーズンだって休んだことはない。とにかくレースが好きなんだ。

勝っても負けても面白いし、ムカつくし、エキサイティングだよ。

車が好きというより、レースが好きなんだね。30歳でF1ドライバーになって、45歳のときに自分のチームでF1に参戦することができた。

F1チームを持つのは自分にとって最終的な目標だったから、活動はたった2年半だったけど、終わったときは燃え尽きたよね。

神様が自分のやりたいことを全部やらせてくれた、そう思ったよ。
 

ARTA NSX ▲10/25に開催された第6選決勝で、ARTA NSX-GTは3位フィニッシュとなった(写真:ARTA(C))

いま乗っているのはフィット、これはいい車だ!

車は結構買ったね。これまで50台以上は買ったんじゃない?

いまはホンダのレジェンドとフィット クロスターに乗ってるよ。新しいフィット、いい車だね。ぜんぜん安っぽくないし、走りもいい。すごく気に入ってるけど、唯一困るのは、可愛らしい見た目だから、車線変更のときになかなか譲ってもらえないことかな(笑)。

一番思い出に残ってるのは、初めて買ったポルシェだね。1986年型の911カレラ。子供のころから「ポルシェが欲しい!」と思ってたから、手に入れたときはシビれたし涙が出たね。

でもその頃は年間200日以上サーキットにいたから、車庫に置きっぱなしでほとんど乗れなかったんだけどね……。

もう1台はランボルギーニ ディアブロ。ラルース・ランボルギーニのF1ドライバーだったときに買ったんだよ。

納車のときは、自宅のあったモナコからイタリアのランボルギーニ本社まで取りに行ってね。

すっごく期待して乗ったんだけど、出発してからたった2kmぐらいでUターンして戻ったんだよ。「この車、ギア入らないし、うるさいし、壊れてるんじゃない?」って。そうしたら「ランボルギーニはこういうもんだ」って言われたけどね(笑)。
 

SUPER GTでそろそろチャンピオンを取りたいね

バイクも好きでね。実は、もともとオートバイのレースをやりたかったんだよ。

高校に入ったら二輪のレーシングマシンを買ってもらって始めるつもりだったんだけど、結局買ってもらえなくて。そのとき欲しかった1973年型のヤマハ TZ250を、最近手に入れたんだよ。

2ストローク250ccのレーサー。さすがに50年近く前のバイクだからボロボロになってたけど、フルレストアして家に飾ってる。ずいぶん高くついたけど、やっぱり嬉しいね。

もう1台、古いホンダ CB750(DREAM CB750FOUR)も持ってるよ。それも70年代のバイクだから、走らせるとすごく遅いしブレーキもぜんぜん利かない。それでもやっぱり二輪は楽しいよね。

最近はYouTubeでいろんなバイクの動画を見るのが、一番の趣味だもん(笑)。

いまの目標? そりゃあやっぱりSUPER GTのGT500クラスでチャンピオンを取ることだね。

車はめちゃくちゃ速いし、若いドライバーも生きのいいのがドンドン出てきてるから、目標というより、そろそろ取らなきゃまずいでしょ。そうしないと次には行けないし、オレも今年60歳になったから、次のステップとして、若い子にレース界を引っ張っていってもらわないとね。

とりあえず、オレはやることはやったじゃない? まあ、ほんとはもっと成功するつもりだったんだけど(笑)。
 

鈴木亜久里 ▲シーズン真っ只中のSUPER GTを総監督として戦う。レースのときにはないにこやかな表情が印象的だった
文/河西啓介、写真/阿部昌也、ARTA
※情報誌カーセンサー 2021年1月号(2020年11月20日発売)の記事「スペシャリストのTea Time」をWEB用に再構成して掲載しています